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「キャプテン!ステーションが見えたよ!」


操縦席から響くブラウの声がはしゃいでいる。

 


キャプテンというのは、彼女がハーレイにつけたあだ名だったが、今ではすっかり皆にも定着していた。
もともとスペースエアポートのポーターで、簡単な船の操縦ができる彼がいなければ、僕たちはアルタミラを脱出することはできなかっただろう。


あれから船内にあった緊急マニュアルでずいぶん勉強をしたようで、今では立派な「船長」だった。
ブラウは今、彼について操縦法を教わっている。

緊急時に備えて、舵を取れるものが複数名いることは重要だ。何も反対する理由なんてないし、僕も協力を惜しまなかった。
それでも時折ブラウが楽しそうに笑う声や、ハーレイが照れている思念をつかんでしまうと突然涙がでそうになったりした。

この感情をどう理解すればいいのかがわからなくて、いつも僕は途方にくれる。

今も、目視で確認できる距離まで近付いてきた宇宙ステーションの残骸に意識を集中させることで、何とかやり過ごした。
興奮したブラウは、ハーレイに抱きついたあとはエラにキスの雨を降らせている。

 

 

アルタミラの収容所に居た頃から、彼女の底抜けの明るさは変わらない。
それに皆がどれだけ勇気づけられただろう。
もちろん僕も。

酷いサイオン検査を受けた直後でさえも、

「今日も生き残れた」

と笑顔を作れたひとを、僕は他に知らない。

大柄なハーレイに、華やかな彼女はよく似合う。
いつか、彼の心の傷が癒える日がくるのであれば。
その時に彼の隣で笑っているのにふさわしいひとだとおもう。

 

 

それなのに、何故こんなに胸が熱くて痛むのだろう。

 

僕は感情を思考から排除した。
そして皆に、ステーションへの着岸準備について説明した。

「遠視の結果、着岸予定のブロックに生命反応はなかった。おそらく、あの部分は連絡船の倉庫跡だと思う」

ハーレイが補足した。
「外見から見てもそう判断する。ただし、何ヵ所か大きく亀裂が入っているのが目視でも確認できるので、足場はかなり不安定だろう」

大勢で乗り込むのは、あまりにも危険だった。
更に何かあったときには自分の身を自力で護り、かつ必要な物資は回収してこなくてはいけない。

 

僕と、誰か。
選択肢はなかった。

 

ステーションの構造を理解し、他の者に較べて体駆もしっかりしている。ハーレイは、僕の前に進みでた。

「行きましょう、ブルー」

10日ぶりに彼の顔をまともに見た。
少し、痩せたみたいだ。

 

その時気が付いた。

彼もここ数日は、何も口にしなかったのだと。
僕に寄越したあの固形食。あれは、本当は彼の分だったのだ。


ただでさえ無い食料を、勝手に食べない者の分まで残す訳がない。この状況下では、それを皆に求める方が異常だろう。

 

何故君は。
身を削ってまで僕にやさしさをくれるのか。


言葉にできないおもいを胸の内でおし殺しながら、僕は彼の目を真っ直ぐに見返して言った。

 

「行こう」

 

(続く)

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