ephemeral -4-

 

サイオンを使えば、この縛りを振りほどくことは容易い。
しかし今の体力では、おそらくここから動くことはできないだろう。

それに…ジョミーを傷つけたくなかった。
これ以上彼に拒絶され、万が一怪我でもさせてしまったらと思うと、ひたすらこの痛みと侮辱に耐える方がましだった。

夢ならば、早く覚めてほしい。そして本当のジョミーに謝りたかった。
僕はこの命がある間に…君のためにできることをしたい。

「…ジョミー」

無意識に唇から名が漏れた。
僕は抵抗することもせず、ただ無言でされるがままになっていた。

動かぬリオにしびれを切らしたジョミーは、片手を離して自分のネクタイを外す。
手首を縛られる感覚に、鮮やかにアルタミラで受けたサイオン検査という名の拷問の記憶が蘇る。

一瞬、僕を縛る彼の手が躊躇したのがわかった。
ああ今の僕は遮蔽が効かないんだった。

 

「お前の見せる幻なんて信用しない」

短く言い捨てると、ジョミーはネクタイの縛りを強く引いた。

その時、僕の視界の隅に何かが映った。
身体中の細胞が、粟立つような感覚にぞくっとする。強いエネルギーが、身体に満ちてくるのがわかる。
近付いてきたその人物は、僕と同じ声でこう言った。

「ジョミー本当に…ゴメン!でも一万円も当たっちゃった!」

更に、僕の愛しいひとの声がする。
「今日のタロットは大当たりですわ。そのお金で、生徒会お揃いの湯飲みを買ってきましたの」

彼らの姿は見えないが、どうやら二人は僕の顔をみていないらしい。
この世界の僕が、のんびりとした口調で話を続ける。

「ねえ、ジョミーは湯飲み何色がいい?ちなみに僕は青。わかりやすいでしょ?」

「ブルー…フィシス…どうして…」

ジョミーがつぶやいた。
そこで初めて、彼は足元にいる僕の存在を認識したらしい。

「ジョミー…?神聖な校内でその…プレイはまずいんじゃないかと…」

それに反応してリオが叫んだ。

「ブルーは生きてます!ソルジャー、このひとの縛りを早く解いてあげて下さい!」

だがジョミーはそれには応えず、黙って僕のワイシャツの袖をたくしあげた。
すぐ近くで息を呑む音がする。

「うわっ…酷いな」
「僕」の声がした。

フィシスは、信じられないといった口調でジョミーに詰め寄る。

「これは注射痕…それだけじゃないわ、こんなに痣や傷痕が…彼はまだ『興奮状態』なの?」
そしてためらうことなく僕に触れると、彼女は僕の頭を優しく撫でた。


「安心してください…もう大丈夫。私たち生徒会があなたを守ります」


久しぶりに聴いたフィシスの声。あたたかく優しく染み込んでくるような。
そしてリアルな触感に、気付けば僕は涙を浮かべていた。

(続く)

★BACK★→ -3- / ☆NEXT☆→ -5-

☆BACK☆[ILLUST/NOVELS]