ephemeral -5-

 

「このひと…ブルーにそっくりなんだ」


かすれた声で、ジョミーがつぶやく。


「宇宙人で…ミュウで…すごく辛いおもいをしていて…ここが夢だと思っている」

「どうしちゃったのジョミー?」
この世界のブルーが、心配そうな声で尋ねる。

「そんなに怒ってるんだ…ごめんね?」

 

フィシスが、僕の頬に手をあてる。そして、ゆっくりと顔を上に向けさせた。
「まぁ!本当にブルーにそっくり」

呆けてるジョミーの脇からリオが手を伸ばして、僕の手首を縛るネクタイを外してくれた。

「本当に…瓜二つですね」

 

当のブルーはというと、腕組みをしたまま僕の顔を見つめていた。

たしかに彼は僕にそっくりだった。

頭には補聴器のかわりに大きなヘッドホンを載せている。
ジョミーと同じ制服だが、ネクタイも曲がっているし少しだらしなく着くずしている印象だ。

だが僕と決定的に違うのは、浮かべている表情だった。

驚きと好奇心に溢れた強い眼差し。
それに相反して、真剣な表情を作ろうとしても口角が上がって、にやけているようにしか見えない軽薄そうな口元。
そして彼の身体中からは、僕にはない生命力の息吹き…そう若さがにじみ出ていた。

「僕は生き別れになった兄弟がいるとは聞いてないんだが…いや、世界には7人自分と同じ顔をした人間がいるっていうからそれかな…?」
と、大きな独り言を言っている。

 

フィシスが、僕を抱き起こしてくれた。

「ありがとうフィシス」

礼を言うのに彼女の顔を見ると、美しい光を宿した瞳が僕を捉える。
…君には、僕が見えているんだね。

「声まで同じですわ!」
フィシスが驚いた声を上げた。

「ソルジャー、彼は一体…」
リオの問いかけに、ジョミーはぽつぽつと話しはじめた。

 

「僕にもよくわからないんだ…このひとがここに寝ていて、ブルーだと思って首を締めて…
触れられた瞬間に考えていることがわかって」

一気に言葉を吐く。
「それから…このひとの過去が一気に流れ込んできたんだ」

 

僕の首、締めたんだ…

というブルーのつぶやきを無視して、ジョミーは僕に向き直った。

「さっきはごめん」
僕は微笑みながら、いいんだと返した。

「とりあえず…生徒会室に移動しませんか?ここにいつまでもいると人に見られます」
リオが常識的な意見を言った。この世界の彼も、しっかり者のようだ。

「君…自力で歩けるかい?」
ジョミーが手を差し出してくれた。

先ほどまでは腕を持ち上げることすら難しかったのに、僕は彼の手を掴むことができた。
瞬間、彼の顔が悲しげに歪むのを見てはっとした。僕が彼に触れると、無意識の内に心や記憶が流れ込んでしまうのだと。
慌てて手を離そうとすると、彼は僕の手をつかんでいった。

「大丈夫。もうほとんど…知ってるから」
さぁ掴まってと、ジョミーは笑顔を浮かべてくれた。

初めて見た、彼の笑顔。
僕の知っているジョミーよりも少し大人びた、でもなんてあたたかい微笑み。

 

僕は素直に従った。

彼に肩を借りながら、フィシスやリオ、こちらの僕に庇われるようにして歩き出す。
幸いにして、放課後と呼ばれるこの時間帯の校内は既に閑散としており、学生にも教師たちにも遭遇しなかった。

 

そして僕は、彼らの生徒会室へと足を踏み入れた。

 

(第1部 終)

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