ephemeral -2-

 

「たしかに僕はあなたの跡をついで生徒会長…いえ、ソルジャーになりました。そして僕なりに、一生懸命やっています」

ジョミーは怒りに燃えた目で僕を見つめながら話しはじめた。

「でも今日は…サッカー部のレギュラーを決める大事な紅白戦の日だったんです。一年生には…今年最初で最後のチャンスでした…」

何をいっているのかがよくわからないが、どうやらこのジョミーは「僕」から座を受け継ぎ、学生の長になっているらしい。
平和な夢の中でも、君がひたむきにがんばっているのを見て思わず笑みがでてしまった。

「笑い事じゃない!」

そんなに大声を出さなくても…と思ったのも一瞬。
僕はますますのど元を締め上げられた。夢なのにたまらなくリアルな感覚が身体を襲う。さすがに体力のない身には苦しい。
思念波で、彼の動きを直接止めるしかなさそうだ。

僕が視線を合わせようと彼の目をのぞきこむと、今度は涙目になっていた。

「今日だけは、もめ事があっても対応してくださいってあれだけ頼んでおいたのに!あなたはフィシスのお告げでスクラッチくじを買いに行ってしまった…」

がくりとうなだれるジョミー。同時に僕を締め上げていた手も緩んだ。

「仕方なくもめ事の処理にむかったら…バレー部男子と女子、どちらが先に更衣室を使うかという超くだらない内容…
そんなのジャンケンでもアミダでもどーでもいいのに」
そしてヘタヘタと座りこんだ。

「あーあ。サムがやっぱりレギュラー入りかなぁ…」
僕はそんなジョミーを見やりながら、ゆっくりと辺りに目を向けてみた。

どうやらここは中庭らしい。僕はその中央に位置する、見慣れない香りの強い花が咲いた植え込み内の芝生に横たわっていた。

彼が締め上げていた、首から下がるネクタイを手にしてみる。
人間の服を着るなんて…あちこちが開いていて、夢なのに何だか心許ない。
こんな無防備な服装で過ごせる人間は、SD体制下とはいえ平和な暮らしぶりということなんだろう。

それにしても、こんな現実的な夢を見るほどにも僕は…人類の暮らしについて心のどこかで考えていたのだろうか?

かつては同胞を救うため、よくアタラクシアに通っていたこともあった。
あの頃は、とにかく気持ちの上で必死で街並みや人々の暮らしぶりをみることなどはできなかった。
思念体となって市街をさまようときですら、僕は目的以外のことにはあまり目をむけてはいなかったのに。

それから目が慣れてきて分かったが、ここはアタラクシアではない。
空には、在るはずのない白い惑星の影が浮かんでいた。

ジョミーの服装は成人検査前に通っていた学校のものだが、今となりに居る彼はどうみても14歳には見えない。
まだ幼さを残した顔つきをしているが、身長は僕とおなじくらいある。
だいたい夢なのだから何が起きてもおかしくないが、先ほどから感じるこの違和感は何だろうか?

だが僕の隣で、目を閉じたまま座りこんでいるジョミー。
怒っていても、落ち込んでいても。僕にとっては、本当に君は眩しい存在だよ。

たとえ幻だとしても。君が笑った顔を見ることができればいいのだけれど。

(続く)

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