「瞳の住人」/「THE POLESTAR」(サンプル)

 

「君という光」(抜粋)


僕にとってこの楽園という名の船シャングリラは、雲海に浮かぶ孤島の監獄だ。
ただ違うところは、この外に逃げても僕の居場所はないということ。

今まで信じてきた世界は、S.D.体制というもので造られたまやかしだった。
そしてそれを僕が確かめるためにミュウが、ソルジャーブルーが払った代償は、あまりにも大きい。

わかっている。


僕の居場所がどこにもないことも、それでも僕が何をすべきなのかも。
一日も早くサイオンを自在に操れるようになって、ソルジャーブルーの望みを叶えたい。
その気持ちは、嘘じゃない。
それでも頭がおかしくなりそうだった。
せめて、この思念の届かないところへ行きたい。

気が付くと、僕は青の間の前へとたどり着いていた。


見るのも辛いほど傷ついた身体。


僕を助けるために力を使い果たしたソルジャーブルーは、静かにその身を横たえている。
いつも、入り口に立つと明確ではない思念波が頬をなでて部屋へといざなう。
不思議だった。彼のおもいは、いつでも僕を安心させる。
そこにはことばや意思は含まれていなくて、ただすっぽりと包み込むぬくもりだけしかない。
誰よりも強い意志とサイオン能力を持つ彼の思念波が、一番やさしく繊細であたたかい。そのわずかな思念さえも、本当は今の彼は使うべきではないのに。
何度も何度も、ここに来るのは辞めようとおもった。これ以上、少しでも彼に負担をかける真似はしたくない。
でも僕は、一日の訓練のメニューが終わると必ずここへと向かってしまう。
そのまま通り過ぎようとする意思は、自然に開かれる扉と流れでるあたたかい空気にあっさりと折れてしまうのだ。

でも、今日は違った。

入り口は音もなく開かれた。でも、そこからは何も感じられない。あたたかい思念も、頬を撫でる風も。
僕は、全速力で駆け出した。

「ソルジャーブルー!!」


ほの暗い空間に浮かび上がる螺旋の通路を一気に上る。
今までこんなことはなかった。

 

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